「人生で最高のセックス」 冒頭サンプル

 真っ暗にした部屋の中でもだんだんと目が慣れて、左を向くとすぐそばで背中を向けて眠る東堂さんの姿が見えた。枕の上に散らばった髪に手を伸ばしても、なんの反応もない。変わらず小さな寝息をたてて、東堂さんはぐっすりと眠っていた。
 指先に髪を絡ませたまま、東堂さんの首元にそっと顔を近づける。体温と、ほのかな石鹸の匂いでくらくらするようなたまらない気持ちになる。音をたててしまわないようにそっと身体を起こすと、東堂さんの横顔が目に入った。
 キスしたい。最近はもう、東堂さんの顔を見るたびにそう思う。今みたいに、夜のベッドの中だけじゃなくて、朝でも昼でも外でも、いつだってそう思ってしまう。オレは東堂さんのことが好きで、好きでたまらなくて、それは一緒に暮らすようになって三年が経つ今でも変わってなかった。でも、東堂さんは違うのかもしれない。
 東堂さんと最後にキスをしたのは八月八日、東堂さんの誕生日。それからそろそろ一ヶ月が経つ。セックスしたのは更にもっとずっと前。どのくらい前か、具体的に言うのが嫌なくらいだ。
 別に恋人同士なんだから、今東堂さんにキスしたとしても責められるようなことではないと思う。でも、眠っているときにこっそりしたってむなしいだけだ。オレは東堂さんを起こしてしまわないように静かにベッドを抜け出して、自分の部屋に逃げこんだ。
 ふたりで寝ていた東堂さんの部屋だけじゃなく、オレの部屋にもベッドがある。でも普段はどちらか片方しか使わない。特にどっちの部屋で、と決めているわけではなくて、たいていは東堂さんが先にベッドに向かうから、それをオレが追いかけて一緒に寝る。オレが先なら東堂さんが来てくれる。それはセックスしなくなってしまった今でも同じだった。
 東堂さんが当たり前のようにベッドにオレを入れてくれるたび、東堂さんが自分からオレのベッドにもぐりこみに来てくれるたび、オレは少しだけ安心できる。セックスしなくなって、キスもできなくなって、もしかしたらもう東堂さんはオレのことを好きじゃないんじゃないかと不安に苛まれる日々の中で、まだきっと大丈夫だと思わせてくれる瞬間だからだ。
 けどオレはこんなふうにときどき、そのしあわせなベッドの中から抜け出している。決まって東堂さんの部屋で寝ているとき。もちろん、ちゃんとあとで東堂さんのいるベッドに戻るけれど。セックスできない以上、これは仕方のないことだった。
 念のために部屋に鍵をかけてベッドに座ると、ここで東堂さんとしたときのことを思い出した。もちろん一度や二度じゃない。その中から今日思い出したのは、東堂さんから誘ってくれたときのことだった。
 あの日は東堂さんの帰りが少し遅くて、夕飯もお風呂も済ませたあとはすることがなくて暇だった。特に眠いわけではなかったけど、ベッドに入れば眠れるだろうし、もう歯を磨いて寝てしまおうかとちょうど立ち上がったときに東堂さんが帰ってきた。東堂さんはなにかいいことでもあったのかご機嫌で、ドアを開ける音を聞いて玄関まで出てきたオレに笑ってキスをしてくれた。
「ところで、おまえ今日は何時に起きた?」
 唇を離すと東堂さんに楽しげな声でそう訊かれて、オレはよくわからないままうろ覚えな朝のことを思い出した。
「え? えーと、七時半くらいかな?」
「昼寝はしたか?」
「ちょっとしました」
「もう眠いか?」
「? いえ」
「なら、オレがシャワーを浴びてくるのを起きて待っていてくれるか?」
「……はい」
「それはよかった。……嘘にはしてくれるなよ」
 そう言って笑うと、東堂さんはすっとお風呂の中に消えていった。東堂さんはいつも音をたてずに吸いこまれるようにお風呂の中に入っていく。オレはそれを見るのがなんとなく好きだった。そして東堂さんがそこから出てくるのをどきどきしながら待っているのも。
 オレは少し迷って、自分の部屋で待っていることにした。どっちにいるのかすぐにわかるようにドアは少しだけ開けておく。そうするとシャワーの音が小さく聞こえて、いっそうどきどきした。
 ベッドの中にもぐりこんでいても、こんな状況じゃあ絶対に寝ない自信があったけど、オレはベッドの上に座って待った。待っている間にそわそわしすぎて何度も体勢を変えて、膝を抱えているときに東堂さんがそっとドアを開けて入ってきた。オレと目が合うと、その体勢が面白かったのか東堂さんはくすりと笑い、それからすぐにスイッチに手を伸ばして電気を消した。
「おまえ、何年経ってもときどき初めてみたいな顔するな」
 ドアを閉めて真っ暗になった部屋でもへいきでオレの前まで歩きながら、東堂さんが笑い混じりの声でそう言った。何回しても東堂さんにはどきどきするんだから仕方ない。それなりに恥ずかしいと思いつつも、オレは開き直って目の前に立った東堂さんに抱きついた。
 東堂さんはシャツを着ていたけれど、ボタンはあまりきちんととめていなくて、胸に顔を埋めると素肌に触れて気持ちよかった。抱きつく腕にぎゅっと力をこめながら匂いを吸いこむと、清潔な石鹸の匂いなのにたまらなく興奮する。今は洗いたてで大好きな東堂さんの匂いは薄いから、たぶん匂いそのものじゃなくて好きなひとの匂いを嗅いでるってことに興奮しているんだ。
「おまえは本当に嗅ぐのが好きだな……まあ今は風呂上がりだから構わんが」
「変態みたいに言わないでくださいよ」
「似たようなものだろう」
「東堂さんだけだからセーフセーフ」
「いやアウトだな!」
 暗い部屋でも目が慣れて、東堂さんが楽しげに笑っているのもよくわかるようになってきた。それを見上げながら抱きつく腕から力を抜くと、すぐに唇が降ってくる。反射的に吸いついて、舌を柔らかい唇に押しつける。すると東堂さんはキスを深めるために床へと膝をついた。
 乾いていた東堂さんの唇がオレの舌で湿らされると、キスの感触がいやらしく変わっていく。同じように舐め返されると興奮して舌に力が入った。
「んん……」
 いったん少し離れて東堂さんの舌を唇でそっと挟んで吸ってみると、不満そうな声が漏れる。東堂さんはこれをされるのが好きじゃなかった。それはわかっているんだけど、こうしたときの東堂さんのちょっと拗ねた顔がかわいくて、ついついやってしまう。
 怒られる前に舌を放してもう一度唇を重ねると、軽く髪を引っ張られた。それを無視して舌を絡める。仕返しみたいに何度か逃げられたけれど、それも楽しかった。
 キスに夢中になっていると、いつも手は勝手に動いてしまっている。東堂さんはオレの首に腕を回してキスに集中しているのに、オレはそんな東堂さんの身体を撫で回してしまう。肩、背中、腰。薄い布越しの身体の感触は素肌とはまた違う楽しみがあった。でもその手がお尻まで伸びると、今度は東堂さんの手が動いた。
「ふふ」
 服越しにかたくなり始めていたそこをもどかしい力加減で撫でられて、身体が震えた。思わず手も止まる。オレの反応を見てなんだか嬉しそうな東堂さんを睨むと、少し力を強めて撫でさすられた。
「付き合い始めの頃は、キスする前からガチガチだったのになぁ……まったく、淋しいよ」
「充分でしょ! てか恥ずかしいからそういうこと言わないでよ」
 確かに今すぐ挿入できますって状態ではまだなかった。でも、東堂さんがぺたんと床に座りこんだのを見たら、次になにをされるのかがわかってしまって、それだけでかたさはぐっと増してしまった。
 東堂さんはオレのものを取り出すとき、やたらと時間をかけるのが好きだった。というか、なんにでも、焦らすのが好きなのかたっぷり時間をかけるひとだったんだけど。
「ちょ、ちょっと」
「嫌か? 嫌じゃないだろう?」
 取り出したそれを何度か手で扱くと、東堂さんは躊躇なく口に含んだ。まずは先端だけ。じゅぷじゅぷと唾液を絡めて吸いつかれる。そのときの、意図的じゃない舌の動きがたまらなかった。もう何度もしてもらっていることなのに、いつまでも慣れないし飽きない。
 思わず目を閉じて気持ちいいのに浸ってしまったけれど、こじ開けて東堂さんを見る。冷たいフローリングに座りこんで、オレのものをしゃぶっている姿。いつもどうしてもそれが気になって、口を開かずにはいられなかった。
「東堂さん、床に座ってするのやめてよ」
「楽なんだよ、しゃぶるのに」
「すっげー気になる」
「萎えないくせに」
「だって気持ちいいから……ん」
 東堂さんにはせめてベッドに上がってほしかったけど、言っても聞いてくれなさそうだ。もうおしゃべりは終わりとばかりに限界まで深く口に含む。オレはそうされるたびに、苦しくないのかなぁ、と思ってしまう。それは余裕があるからじゃなくて、むしろイってしまわないようにどうでもいいことを実は必死に考えているんだ。
 東堂さんは、オレの余裕のない顔が大好きで、オレにそんな顔をさせるために一生懸命だ。でもオレはそれが嫌いじゃなかった。オレのことが好きで、自分に夢中なオレを見るのが大好きな東堂さんは最高にかわいくて、でも先輩相手にそんなことはちょっと言いづらいからこっそりかわいいなぁって思っている。けどたぶんそれも見抜かれてそうな感じがまたセックスの悦さを増幅させている気がした。
 東堂さんは自分の顔も大好きで、それが絶大な効果を持っていると信じて疑っていないので、オレ相手にもそれはもう全力で活用してくる。実際、オレにとっては好きでたまらないひとの顔なので、そんな顔がオレのガチガチになったものをしゃぶったりしていると確かに効果は抜群だ。頬ずりされるともどかしくてたまらなくなるし、それをわかっていてたまにチラチラと見上げてくるのが意地悪だった。
「してほしいことがあるなら、素直に言えば聞いてやらんこともないのだぞ」
 主導権が自分にあるときの東堂さんはとてもカッコイイ。自信に満ちあふれていて、余裕たっぷりで、すっごくえろくて最高だと思う。オレも男なので、好きなひとにいやらしいことをたくさんして乱れさせたい気持ちももちろんあるんだけど、好きになったのがこのカッコイイ先輩だったから、こういうセックスも大好きだった。
 オレのがこれ以上ないほどかたくなったことを頬ずりしたことで気づいた東堂さんはとりあえず満足したのか、ベッドに手をついて腰を上げた。そのときちらりと見えた東堂さんの股間も、オレほどかどうかまではわからなかったけどしっかり勃っているのが見えた。オレがそこに視線を注いでいるのには、もちろん東堂さんも気づいているようだった。
「触りたかったら、触ってもいいんだぞ。ベッドの上ではおまえはオレの身体になにをしてもいいのだからな」
「じゃ、とりあえずベッドに上がってほしいなぁ」
 オレがそう言うと、東堂さんは片眉をつり上げた。けど機嫌を損ねたようではなかったみたいだ。
 東堂さんの身体を膝の上に引き上げようとすると、なんの抵抗もなく上がってくれた。と思ったのは一瞬で、気づくとオレは仰向けになっていた。東堂さんがオレの身体を跨いでベッドに乗り上げる。口元はオレの好きな笑みの形で。
「他にご希望は?」
「あは」
 したいことなら山ほどあった。もう数えきれないほどさせてもらったことのあることも、ちょっと反応が怖くてまだ言い出せていないことも。でもオレはそのどちらも言わず、左手をさっき注視してしまった東堂さんの股間へと伸ばした。
「ん……ッ」
 東堂さんはその手を振り払ったりはせず、むしろ自分からジッパーを下げて下着の中へと招いてくれた。オレは東堂さんみたいな焦らし方は不得手で、触れたかたいものはつい容赦なく扱いたり、揉みしだいたりしてしまう。東堂さんはそれに合わせて何度か腰を揺すり、その動きに更に興奮したオレにわざとらしく舌なめずりをして見せた。
 さっきまでオレのを舐めしゃぶってくれていた、気持ちいいのを知っている舌を見て、オレは右手をそこへと伸ばしていた。触れたい、舐めてもらいたいって自分の気持ちももちろんあったけど、それ以上にいつも東堂さんがしたがることだから、自然とねだられる前にそうしていた。
 東堂さんはオレの指を舐めるのも好きだった。どうせローションを使うのに、ねっとりと時間をかけて舐めしゃぶる。それはフェラよりもずっとオレの顔に近いところでされるから、オレはもどかしい興奮でどんどん呼吸が荒くなってしまう。
 しゃぶる指はいつも二本で、人さし指と中指だ。一本だと物足りないようだけど、三本だとしゃぶりにくいらしくて不満そうな顔をされてしまう。
「はぁ……んぅ」
 吸いつく生ぬるい舌の感触と、軽く当たる歯の硬さ、熱い息。オレの手に片手を添えて、とろけた顔で腰を揺すりながら指をしゃぶっているのを見ていると、我慢できなくなりそうだ。
 東堂さんの下着の中にある手を、更に奥へともぐりこませる。窄まっているところを指の腹で優しくこすると、東堂さんの動きが止まった。指をしゃぶっていた口から力が抜けて、数度まばたきをするのをじっと見つめる。ちょっと名残惜しそうにゆっくりと口からオレの指を引き抜くと、東堂さんはよだれまみれの口元をぐいっと拭った。
「もっと舐めてたかった?」
「まあ、少しな。だが触られたら入れられたくなった」
 東堂さんににんまり笑いながらそう言われて、思わず押しつけたままだった指に力が入った。すぐにこら、と怒られてしまったけど、そこがわざとか勝手にかはわからないけどひくついたから、ついそのままこすり続けてしまった。
「そのままこすっていても入れられんぞ……ほら」
 東堂さんはオレから身体を離して起き上がると、腕を伸ばしてローションのチューブを手に取った。そのとき、一緒に身体を起こしたオレの顔の前に東堂さんの胸が来て、脱げかけたシャツの隙間からかたく尖った乳首が見えた。今日はまだ一度も触っていない。差し出されたチューブを受け取らずに邪魔に思えてきたシャツを脱がそうとすると、東堂さんは誤解をしてすべて脱いだ。
「いい眺めだろう」
「うーん、暗くて微妙かな。たまには明るいところでしてみません?」
「ふむ。悪くない……が、離れる気にはもうなれんな」
 この部屋の明かりはドアのそばにあるスイッチでしか操作できない。だから今ここを明るくするには一度離れないといけないんだけど、東堂さんの言うとおり、そのためだけに離れる気にはオレもなれなかったので、今日はこのまま続行だ。
 東堂さんが膝立ちのまま、オレの手にチューブからローションを出してくれる。パチンと音をたててキャップを閉めると、らしくなくそれを適当にベッドの上に放り投げた。それを見たらああ、余裕そうなふりしてるだけなんだなと思ってどきどきした。
「ん……」
 ぬるぬるになった指でひくついているところに改めて触れると、東堂さんは待ちきれなかったのか、オレが指を動かすよりも先に腰を前後に動かした。ついさっき、こすっていても入れられない、と言ったのは東堂さんなのに、じっとしていられなくてオレの指にこすりつけちゃっているその姿は最高にえろかった。とはいえ、オレも全然余裕なんてないからじっくりそれを眺めてはいられない。いくらぬるぬるしていてもこのままじゃ指は入っていかないので、オレは逆の腕で東堂さんの腰を引き寄せて乳首に吸いついた。
「あッ」
 ビクッと東堂さんの身体が跳ねて、それからオレの頭を抱えて大人しくなる。その隙にさっき東堂さんがしゃぶってくれていた指を、まずは一本だけ差しこんだ。
 指を動かしながら、口の動きも止めなかった。強く吸うと身体が強張り、口を離して舌の先で優しくいじると腰が揺れた。舌全体で押しつぶすようにすると物足りなさそうに震え、オレに舐められて濡れたそこに息を吹きかけると指がきつく締めつけられた。
 気づくともう片方の乳首が東堂さんの指でつままれていた。オレの動きに合わせて、控えめにその指も動いている。片方ばかりいじるのをやめて、その指ごとそっちも舐めてあげると、東堂さんはつまんだ乳首をオレの舌に差し出すように指を動かした。
「あっ……あ、いい……」
 目を閉じて気持ちよさそうにしている東堂さんを見たら、もっと早くいじってあげればよかったかも、と後悔した。東堂さんがここで感じるのは知っていたんだから。
「ごめんね。忘れてたわけじゃないんですよ」
 オレがそう言うと、今度はオレに散々しゃぶられまくって濡れているほうの乳首を指の腹で撫でていた東堂さんが、ゆっくり目を開けて首を傾げた。
 キスしているときでも、フェラしてもらっているときでも、乳首に触ろうと思えばいつでも触れた。最初に抱きついたときに吸ってもよかった。でもこの間、フェラの最中に手を伸ばしていじったら、そうされるとやめたくなる、と言われてしまってタイミングがよくわからなくなっていたんだ。
 オレがそう話すと、東堂さんはちょっと困った顔をした。
「あれは、そういう意味ではなくて……気持ちいいから、つい口から出してこすりつけたくなるんだよ。指でするよりそのほうが興奮するし……けど、おまえそれよりしゃぶられるほうが気持ちいいだろう?」
「……」
「オレも、しゃぶるのは好きだし、だからその最中にされるのは……ッあぁ!」
 最後まで聞き終える前に、オレは東堂さんの中に入れていた指を引き抜き二本に増やして入れ直した。東堂さんは痛がっているようには見えなかった。むしろ嬉しそうにオレに抱きついて腰を揺らす。また乳首を舐めてほしがったけれど、オレはそれには応えてあげられなかった。
「もう入れたい」
 耳元でそうささやく。興奮で声が掠れて恥ずかしかった。
 入れていた指を全部抜くと、ずっと膝立ちだった東堂さんが足を震わせて座りこんだ。でもすぐに顔をオレの股間に近づけると、しばらくほったらかしだったそこを間近でうっとりと眺めた。そしてもう一度先端にしゃぶりつく。それにオレがびくっと反応するのとほぼ同時、つまりしゃぶりついてすぐに離れ、いつの間にか用意していたゴムを着けてくれた。
こういうことをされるのは初めてじゃないし、なんとなくされる予感はしていたから今日は大丈夫だったけど、たまにすごく我慢しているときなんかにこれをされるとイってしまいそうになる。それはさすがに恥ずかしいし、今のところは耐えられているけれど、そのうち思いっきり顔にかけてしまいそうで心配だった。
 またオレの身体に跨がろうとした東堂さんを止めて、仰向けに寝かせる。気分によってはこういうちょっとしたお願いも聞いてくれないひとだけど、今日は体勢にこだわりはないみたいだった。
 そっと先を宛がうと、東堂さんの手がオレの腕まで伸びてくる。熱い手のひらには掴むというほど力は入っていなかったのに、オレは引っ張られるように東堂さんに覆い被さってキスしていた。
「このままのほうがいい?」
 唇を触れ合わせたままでそう聞くと、東堂さんは小さく頷いてオレの首に腕を絡めた。東堂さんが仰向けに寝ていると、つい身体を離したままそこを見ながら入れてしまう。でも東堂さんは入ってくる瞬間はオレとくっついているほうがいいようで、だから最近すぐにオレに跨がるのかもしれない。単純に動かしやすいっていうだけで、オレだって東堂さんとはくっついているほうが嬉しいんだけど。
 唇に吸いつきながら、ゆっくりと入れていく。その間、東堂さんは熱い息を漏らすだけで動かない。舌を口の中に差しこんでも、このときだけは無反応だ。そこの感覚に集中しているのがよくわかる。
「はぁ……あ、ぁっ」
 根元まで押しこむと、腕だけでなく足も使ってぎゅっとしがみつかれた。そうされてしまうと激しくは動けず、身体を揺するくらいしかできなくなる。でも入れたばかりのときにはそのくらいがちょうどいい。舌を絡ませながら密着して身体を揺すると、強すぎない刺激が気持ちよかった。そうしているとだんだんと東堂さんの顔もとろけて、足から力が抜けていく。
 キスしたまま足を撫でると、シーツとこすれる音をたてながらオレの身体から離れていった。唇を離して身体を起こす。そのオレの動きに反応して中が控えめに蠢いて、思わず、ゆっくりしようと思っていたのに一気にギリギリのところまで抜いてしまった。
「あぁっ」
 東堂さんの身体がびくりと跳ねる。中に残した先端が締めつけられて、たまらなく気持ちいい。小さく呻いて、乱暴になってしまいそうなのを耐えていると、東堂さんの震えた指が抜けそうになっているそこに伸ばされて、薄いゴム越しにそっと触れた。
「あッ、も、明かりつけたい……」
「? なに……?」
「すっげー見たいそれ、絶対えろい」
 腰を小刻みに動かしながらそう言うと、触れている東堂さんの指に少しだけ力が入った。暗いけど、ぜんぜん見えないわけじゃない。それがまたもどかしくて仕方ない。
「こ、今度だって……あっ、中断したら、殴るからな……ッ」
「しないよ。もう無理、抜きたくないもん」
 東堂さんの指が根元までを行ったり来たりし始める。力はほとんど入っていなくて、撫でられてるみたいな物足りない感触。促されるようにまた根元まで中に埋めこんですぐに引き抜くと、東堂さんの指の感触も加わっていつもよりも興奮した。
「はぁ、東堂さん、気持ちいい?」
「きもちいぃ……! あぁッ、真波、もっと……っ」
「指で、触ってるのも気持ちいいの?」
 東堂さんはこくこくと頷いた。
「口より……指より、中のほうが、ぁっ、おまえのがかたく感じて」
 そこまで言って、東堂さんは口を閉じた。下唇に歯が軽く食いこむ。悶えるように緩慢に首を振って、髪がぐちゃぐちゃになる。手は変わらずつながっているところに触れたまま。
「あっ、あ、イく、もう……ッ」